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異彩ノ雫

第54章  intermezzo 小景 ~イリュージョン




妖精が
舞いこんだ…

ひときわ強い風とともに
大きく開け放った南の窓から

冬晴れの朝焼けよりも
美しい羽
銀色の巻き毛に尖った耳

突然の出来事は 時をとめる

かん高い鳥のひと鳴きに
弾かれ
そっとベッドに寝かせれば
差し込む日差しとともに
時は再び 流れ始める

覚めやらぬ夢のような
淡色の風景

ほっ、とついた吐息に
起き上がる華奢な体

── …風向きを読み誤りました

小さな器に注いだ
ホットミルクをひと口
恥ずかしげにまたたく瞳は
魔性を宿す明るい緑

── お礼にひとつ
願い事を叶えましょう

夢は夢

── …あの人に想いを告げる勇気がほしい……

微笑む妖精は羽ばたきながら
額に優しく口づけた

たちまち飛び去るその後に
砂子のような光が残る



夢は…うつつ


丘の麓の小さな教会
煌めく樅の木を見上げるかたわら
ふくふくと大きな体の彼が、いる







(了)


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