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異彩ノ雫

第111章  七ノ月 Ⅱ




男は
流れ着いたその店で
あおるようにジンを喉へ送り込む
まるで
砂漠のオアシスで旅人が水を飲むように

重ねるグラスは
満たすためか 忘れるためか…


やがて
吐息とともに目にした古びたピアノ
覚束ない足取りと揺れる肩で
鍵盤に向かえば
溢れでる旋律の嵐
たちまち店がコンチェルトに満たされる

その背に 指に
過ぎた時間をまとわせながら
奏でられる美しき楽の音は
夜に集う迷い人を異邦人へ変えてゆく

男が疲れ 鍵盤に伏せて眠るまで…







【流転】



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