
異彩ノ雫
第125章 intermezzo 吟遊詩人 ~王の夢
王は問う
旅は如何に、と
膝をつくさすらいの詩人の答えて
── 楽しきことは 人との出会い
哀しきことは 人との別れ
旅は人の生きる道に等しきものかと…
部屋の灯りが風に揺れる
── 私はこの国を出たことがない
今だかつて
恐らくこれからも
一度海を見たきもの…
山あいの小さな国の王は
言葉を洩らす
詩人はふと顔を上げ
窓を背にリュートを奏でる
── 昔
一羽の鳥が山を下りて海へ向かう
夢に描いた蒼き海
波間を漂い 潮騒に包まれながら
けれど心は 生まれた森の
深き緑を恋うていた
森に愛されし白き鳥
蒼色はただ 胸奥に秘めし淡き夢…
リュートの音が月明かりに溶けて流れる
聞き入る王の
心の水面がかすかに揺れた…
(了)
