
異彩ノ雫
第141章 intermezzo 愛の面影
その人は
夢見るように
時のあわいを生きていた
早暁
立ち込める朝靄の中
あてなくさ迷う湖のほとり
午後の降り注ぐ光の中
揺り椅子と
ブラームスの舞曲に身を預け
微睡みながらほころぶ口許を風は過ぎる
夜更けては窓辺にもたれ
星明かりを
指先に灯すようにさし伸ばし
いつの間にか眠りに就いた
誰もその人の声を聞いたことはない
ただ
時おり かすかに
呟く言葉
フレデリク、フレデリク…
うつつは消え去り
その瞳には
あの日 ただ一度振り返った
愛の面影をやどすばかり…
(了)
