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異彩ノ雫

第148章  intermezzo ~マリエ




彼の名はカルメーロロメーロ

街一番の仕立て屋は
小さな工房の片隅で
ミシンのリズムを刻み続ける


朝のエスプレッソ
夕べのワイン
変わらぬ明け暮れに吹く風は
訪れるご婦人の陽気なお喋り
鳥の囀りのように
無口な彼の耳を彩る

コットンリネンのワンピース
ツイードのスーツ
サテンのイヴニングドレス

昼の夢 夜の煌めき
彼の手は
女たちに魔法をかける


けれど
その手が
マリエを仕立てることはない
ただ一着が
夢の消えたあの日のままに
残るばかり


長い 長い 時の彼方に立つ今も
ドレスに映る少女の微笑み
ひとりある身の愛の形見…



今日も彼はミシンを踏む

── 私の魔法使いさん…!
愛しい声を胸に抱きながら







(了)


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