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異彩ノ雫

第166章  恋文 (十一)




あなたはいつも
ふらりと現れては
真紅の薔薇を胸に抱えて
タンゴのステップを踏んでいた

薄明かりの揺れるダンスフロア…

ほら
今夜も あなたが踊ると
女たちはざわめき
男たちは沈黙するの

楽しげに
けれど
少しだけ
切ないあなたの眼差しは
過ぎた恋を見つめているのかしら


ありふれた恋なら
幾つも夜の巷に落ちているわ

でも……



ねえ、あなた
最後のワルツを一緒に踊ってくださらない?

甘い囁きはいらないから
ただ一度
あなたの胸で夢を見たいの







(了)





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