
異彩ノ雫
第197章 恋文 (十六)
あなたは忘れておいででしょう
私たちの出会いは
子供の時分であったことを
あれは
まだ世の中が穏やかだった頃…
退屈な大人たちの集まりに
少なからず飽き飽きしていた私の前に
あなたは突然現れた…
そう、さながら
舞い降りた色鮮やかな鳥のように
初めて目にする優美なお嬢様に
心奪われるあまり
すっかりおとなしくなった私を
大人たちは訝りながら
額に手をあててきたりしていました
…思えば
あの日から変わることなく
あなたを追い続けていたのです
自分でも知らないうちに
言わせてくださいますか
今
幾千の夜を超えて
あの日ついに言えなかった言葉を
私と踊っていただけますか
マドモアゼル…
(了)
