
異彩ノ雫
第27章 intermezzo 追憶 ~彼のいる風景
あれはいつのことだったのか…
あたしたちは
生まれ故郷の小さな港町で
一座を組んでいた
アコルディオンのエンリケ
ヴィーゴのギター
あたしはダンスだけど
皆が熱くなるのはレオの歌だった
甘く 時おり掠れる歌声は
娘たちも
パン屋のおかみさんの心も蕩けさせた
もちろん、あたしも…
レオ
誰にでも愛を振り撒く色男
君だけだよ…
夢中にさせながら
誰のものにもならない伊達男
ある時外国から来た女が
レオを海の向こうへ連れ去った
スターという言葉に覆われた
レオの耳には誰の声も届かなかった
彼のいなくなった一座は
息を止めたように眠りに就いた
どうして レオ
帰ってきて レオ
埠頭に立つあたしの叫びを
潮風がちりぢりにしてしまう
町も影が濃くなった…
そうして便りもないまま
長い一年が過ぎた春
風に乗って流れてくる懐かしい歌声
皆手を止め 耳をすます
船着き場から近づく歌声
次第に大きくなる踊るような人影
……レオ!
町中の人が家を飛び出し
彼を取り囲んで頭を頬を背中を叩く
泣き笑いの渦の外
あたしはブラヴォーとだけ繰り返し
濡れた頬を潮風に吹かれていた
語り終えたその肩を
傍らに立つ彼が そっと抱き寄せる
(了)
