
大切な人へ
第5章 終業式
恐る恐る振り返ると やっぱり彼だった
目が合った瞬間 彼の表情が少し変わる…
「まだいたんだな」
『あの…忘れ物して取りに帰ってきたんです』
苦しい言い訳
「泣くほどあせって?」
返す言葉がない。
やっぱり会いたくなかった
「少し冷した方がいい」
彼はそう言って連れてきたのは
いつもの科学室の奥の部屋で科学準備室。
初めて入る部屋で促されるまま椅子に座る。
「…何があった?」
優しい口調でそう聞きながら
タオルにくるまれた保冷剤を渡してくれる
瞼にあてると冷たくて気持ちいい…
『……思い出し泣き。何も 』
目を冷し 下を向いたまま答える。
「俺ね?今日、式が終わってからさっきまで
ずっとここで仕事してたんだ」
? 何の話しかわからない
「ここの窓の下には、中庭のベンチが見える」
うそ…
先生には見られたくなかった…
「話は聞こえないけどね…ごめん。」
そう言って足音が近づき隣の椅子に座った。
「それが原因?」
黙りこむ私から足音が離れていった…
