
飴と鞭と甘いワナ
第6章 HurryUp! episode 1
N side
ホンの些細なコト。
物事が起こる切っ掛けなんてそんなもんだ。
"俺ってアンタの何?"
そう問い質すくらいの放って置かれっぷりが頭にキてたのはホント。
"新手の放置プレイかよ"
なんて笑ってられたのも最初のウチだけ。
徐々に笑いが苛立ちに変わってイライラが募る。
だからってここまで拗(こじ)らせるつもりは毛頭無かったンだ、楽屋に入るまでは。
ドアを開けた瞬間、スマホに耳を傾ける相葉さんの後ろ姿が目に入った。
微笑ってる声の雰囲気で分かったのは今日も飲みに誘われてるって事。
"…またか"
そう思っても。
付き合いの良し悪しがこの先々の有り様を左右してしまうのがこの業界の常。
だから物分かりの良い恋人の仮面を被ろうとしたのに
「しようがないだろ」
そう開き直った挙げ句、後輩との行き来を引き合いに出してきやがった。
俺がそうするからオマエもそうすんのかよ?
仕返し?報復?
気づいたら手近の紙コップを投げつけてた。
涙でボヤける視界。
惨めな俺。
"追いかけてくんな"
虚勢張ったオーラを纏って飛び出た楽屋。
ドアの閉じる音が無情に響いた。
