
飴と鞭と甘いワナ
第3章 scene Ⅲ
「だから別に…何もないって」
ダメだ
このヒトに付き合ってたら、俺も誤魔化しきれる自信がない
棚にある雑誌を直すフリをして
大野さんの視線から逃れてみるけど
「えー…嘘だぁ」
尚もカウンターに顎を乗せたまま
頭を左右に揺らしながら、にんまりと笑っている
だからその顔が嫌なんだよ
何でも見透かしたような、その視線が。
「うるさいなぁ!俺は仕事してんの。
…ほら、もうすぐ午後の予約入るでしょ!」
振り切るように強く言って、俺は大野さんを無理矢理カウンターから引き剥がした
「ニノがいじめるー」
笑いながら、…それでもおとなしく引き剥がされた大野さんは
結局引き際を分かってるんだよね
“お客さん来たら教えて“ って言って
さっさとスタッフルームに入って行ってしまった
店内に1人残された俺は、盛大に溜め息を着いた
…そう言えば、前に雅紀が
“溜め息付くと幸せが逃げる“
って言ってたっけ
…人一倍、災難を背負い込むくせに
