
飴と鞭と甘いワナ
第1章 scene Ⅰ
ニノと知り合ったのは
いつだったろう?
確か、今日みたいな……
蒸し暑い時期。
日雇いの肉体労働で食ってた…て云うか、とりあえず生きてた…そんな感じ。
よれよれのシャツとジーンズ。
伸び放題の髪は輪ゴムで一括り。
代わり映えのしない、ただ時間だけが過ぎてく退屈な毎日が続くもんだと思ってた。
一日中、猫車を押してようやく手に出来る僅かな日当。
馴染みのコンビニで買うのは安定のカップ麺とオニギリ。
小っさなビニール袋を片手に
夕立の後の蒸れた空気の中を
何故か遠回りしたくなった。
公園を突っ切らずに迂回して。
何処からか漂う揚げ物の匂いに馬鹿正直な腹が鳴った。
勝手に早足になってくのは俺の腹と脳みそと足が直結してるんだなぁ…なんて馬鹿みたいな事考えてたら引っ掛かった赤信号。
横断歩道の手前、
暑い西日を避けて立った店先。
モダンな、それでいて町並みにちゃんと馴染んでる洒落た店。
美容院?
あ、カットサロンとかって云うのかな。
表通りに面した大きなガラスの向こうに何気に目を向けた。
そこに居たのがアイツだった。
