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虞犯少年

第24章 見えないはずが見えたのさ




荒れ狂うよう嵐は辺りの机と椅子を蹴っ飛ばした。

ヒッと息を呑む美帆の顔は真っ青で唇を震わす。

私はその光景をぼんやりと見つめながら嵐の怒りを表すようなうるさい音に何故か少しだけ心が落ち着いた。

なのに、私の体にまとわりついてきた肌が、温度が、酷く冷たくてキモチワルイ。やめて。離して。逃れようとも逃れられない事は頭では理解している。




「だって嵐…明日香の友達には興味ないって言ったじゃない!!」


「あぁ。言った」


「私…明日香とはもう友達じゃない。嵐が好きなのっ……だから」



嵐を求める声。私が知らない所で交わされていた会話。私の知らない嵐。私の知らない美帆。

私だけ、私だけが何も知らなかった。

二人の関係も気持ちも何もかも…近くに居た筈なのに、こんなに遠い。

美帆は嵐が好きで、私が邪魔で…

簡単な事だ。美帆にとって大切なものが私ではなく嵐だった。それだけのこと。美帆が言った"だから"の意味も、その続きも分かる。

今にも崩れ落ちそうな美帆は必死に嵐に手を伸ばした。

私はギュッと奥歯を噛み締めて体を強張す。

……怖い。




「だから?」



それは酷く冷めた声だった。

機械音のように感情がない。

見下すように言い放つ。

こんな風に言われたら何も言い返せない。

好きな人だったら尚更何も言えなくなるだろう。

嵐が向けるその瞳もきっと冷たい。

見なくたって分かった。

美帆が大粒の涙を流し、小刻みに震える体はそれを物語るようで心臓が痛い。







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