
虞犯少年
第27章 鼓膜が裂けるコミュニケーション
「―――もっしもーし」
弾む声はこの状況を楽しんでいる。
伸びてきた左手が私のヒリヒリと痛む頬を撫でた。
ビクンと体を揺らした私にまた真碕は楽しそうに唇を舐めた。
「よぉ、九条。そんな怒鳴んなって。うるせーから。…あ?まだ明日香ちゃんには何もしてない…でもちょっとムカついたから殴っちゃった。悪いねー」
全く悪びれもなくそう言って、鼻で笑う。
電話から漏れる声は紛れもなく嵐の声だった。
怒鳴り散らすようなその声に少なからず安心してる自分がいた。
よかった…嵐はまだ傷ついていない。
そう思ったのも束の間。真碕が言った一言に私は力を無くす。
「一人で来い。いいな」
低く吐き捨てる言葉には、憎しみが込められている。
嵐との間で何があったのか、この人と嵐が居る世界はそういう世界なんだと思い知らされた。
暴力でしか交わらない世界。
そこに私も今、足を踏み入れようとしているんだ。
「明日香ちゃんを殴ったっつったらすごい剣幕で『明日香に手ぇ出すな』だってさ。ほんと愛されてんねー」
