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虞犯少年

第29章 こわれるくらい味わって



たった一瞬。

その光景を見てしまった一瞬で私はこの場から逃げたくなった。

隣に居る真碕までもが呆然と立ち尽くしその状況をすぐに理解した瞬間、怒鳴り声を張り上げる。



「っテメー!!」



血の海の中心にいる人物はゆっくりと振り返る。

その手には鉄パイプが握られ誰の血かも分からないような赤があちこちにこびりついていた。

地面に倒れてもがく人数は半端じゃない。

多分、それは真碕の仲間。

そして嵐の周りには同じように誰の血か分からない赤で染まる男の人たち。

何があったかなんて、この光景を見てしまえば一目瞭然。





「……呼び出しといて待たせんな」



地を這うような低く、ズシリとした声。

特別大きな声を出した訳でもないのに、その存在感は圧倒的で誰もがそこから動けなくなる。

隣に居る真碕でさえも顔を強ばらせた。

何十人もの人の中心に立ち、射抜くような鋭い目つきを向ける。カラン、と鉄パイプが地面に投げ捨てられた音が鮮明に聞こえた。





「明日香。迎えに来た」



来ないかもしれないと思ってた。

でも本当は来てくれると思ってた。

信じてないなんて嘘。誤魔化しが利かない私の心の隅にはしっかりと嵐が来てくれるって、分かってた。

それが信じるって事なら私は嵐を信じてたんだ。

いつも素直になれないだけで、伝えられないだけで大切なものはちゃんとある。


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