テキストサイズ

虞犯少年

第29章 こわれるくらい味わって





「ふざけた真似しやがって!!」


真碕は怒りで顔を歪ませ嵐に殴りかかった。

私は息を潜めるしかない。

何もやれない。怖い、と思って目を思い切り塞ぎたくなる衝動を必死に耐える。

大きく振りかぶった拳は嵐に当たる事なく宙を切った。



「ぐっ!!」


悲痛な声を上げ前屈みになる真碕。嵐の重い拳が真碕の顔に傷をつける。それだけじゃない。嵐の容赦ない攻撃に真碕はその場に倒れ込む。



「明日香殴ったのはこの手か?」


嵐の背中しか見えない。今、どんな顔をしてるのか見えない。けど分かる。嵐は今までにないくらいキレている。

嵐は躊躇もせずに真碕の手を踏みつけた。瞬間、埃っぽい空気に乗せた悲鳴が倉庫内に響く。私は咄嗟的に手で耳をおさえた。恐ろしいとしか言いようがない。今の私にある感情はそれ以外ない。



「ぐっ、は」


すでに力無い真碕の上に尚も嵐は馬乗りになって殴り続ける。重なる鈍い音に拳は真っ赤。

それはもう喧嘩なんかじゃなくて一方的な暴力。

誰も嵐を止める事が出来ない。

これ以上やったら相手が危ないと分かっていながらも、張り詰めている空気の中、誰も動けないでいた。


ストーリーメニュー

TOPTOPへ