
虞犯少年
第29章 こわれるくらい味わって
「嵐!もうやめて…っ」
震えるのは声だけじゃない。
一歩、歩んだ足も震えていた。
それでも止めるしかない。私が嵐を止めるしかない。これ以上その手が傷つく必要なんかないから。
止めなければ真碕が死ぬ。大袈裟なんかじゃなくて本気で私はそう思った。
「嵐!!」
聞こえて。ちゃんと私の声。
向けられている背中に力いっぱい抱きついて何度も呼ぶ。
嵐。嵐。
肩で息を吸って、吐くを繰り返す嵐は我に返ったよう真碕から掴んでいた手を放した。
「明日香」
「うん。嵐…ありがとう。私は平気。大丈夫だから」
まるで子供をあやすように優しく言う。
静かになる嵐はゆっくり私と向かい合ってその腕の中にギュッと閉じ込められた。嵐
は私の存在を確かめるように強く、強く抱き締める。
「ごめん。怖い思いさせた。
もう、絶対ぇ離さない」
赤がうつる。私の体に。
匂いが、色がへばりつく。
そっと差し伸べられ手は冷たくて、温かい血まみれの愛の手。
こわれるくらい味わって
(覚悟はすでにできている。)
