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虞犯少年

第34章 虞犯少年




「今、家に誰かいるか?」


「ううん。いない」


「抱きてぇ…」


「………うん。いいよ」



抱き合ったままのこの距離で交わした会話はたったこれだけ。

嵐の胸が遠のいたと思ったら、額にキスをされた。

いつも家の鍵は右のポケットの中。

嵐はそれをすんなり探し当て器用に鍵を開ける。

嵐はどこまでも私を把握していた。

それが嫌じゃない。居心地がいい。私を知っていてくれる。


嵐は躊躇無しに家に上がった。私の部屋の前で一瞬、立ち止まり伸ばした手の先に広がる見慣れた生活の一部。

そこに踏み入った時、嵐は真っ直ぐな瞳を私に向ける。



「明日香…さっきのもう一回言って」



逸らさない。強い意志のある瞳に私はいつでも捕らわれていた。

かすれた声がキュッと胸を苦しくさせる。

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