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虞犯少年

第10章 隠し言葉



イライラしてる嵐にさすがお兄さんなだけあって余裕そう。

笑顔がこっちに向いた。

すかさず嵐が庇うように立ちはだかる。前が見えない。顔が見えない。



「見んな」



喧嘩腰の口調。見なくたって嵐が睨んでいるのが分かる。さっき以上に怒りが増している。



「へぇー。嵐にも女が、ね」


「手ぇ出したらぶっ殺す」


「はは。やれるもんならやってみろよ?」



柔らかさとトゲが混ざったような声は消えた。"弟をよろしく"って言葉を残してガチャリとドアが閉まる音。

いい人なのか悪い人なのかよく分からないけど、あの鋭い瞳は嵐とソックリだった。

振り向いた嵐はさっきまで機嫌がよかった筈なのに今はもう、余裕さえもないようで。




「よそ見すんじゃねーぞ。あんな奴に明日香見られたってだけでムカつく。
誰にも触らせねーし、見せたくねぇ」



ベッドに押し倒された私の上で怒りを押し殺した嵐の瞳にはやっぱり私しかうつっていない。


求められるがまま、私と嵐が一つになる。


"弟をよろしく"


苦いものがぐるぐると渦を巻いて吐きそうになった。

私に嵐という存在はあまりにも大きすぎて。







隠し言葉

(想いを塗り潰す方法は。)

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