パパ、もう一度抱きしめて
第6章 兄と妹
遼太郎side
「もしもし俺だけど」
『何?お兄ちゃん』
美緒は、大手アパレルメーカーに勤務するOLだ。最近は重要な仕事を任せられるようになり、家に遅く帰る日が増えていた。
「すごい雷鳴ってるんだけど、帰り大丈夫?迎えに行こうか」
『えー、もう子どもじゃないんだから一人で帰れるわよ。大体患者さんほっといて迎えに来るなんて、有り得ないし』
「だから合間を見計らって行くさ。
電車が止まったら大変だろ」
『ほんとに心配性なんだから。あのね、今から会議なんだ。それじゃあ』
「おい」
ツーツーと電話の切れた音がした。
ふっ…。
確かに俺は度が過ぎるほど、いつも美緒の心配ばかりしていた。
そのせいで、今まで付き合った何人かの女(ひと)が、俺から離れていったな…。
だけど俺はそれでも構わない。
むしろ、美緒と二人の暮らしはとても居心地が良くて気に入っている。
俺は美緒も同じ気持ちでいるんだと、
ずっと思っていたんだ。