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楔 ---KUSABI---

第1章 壱・白羽の矢

リン リン リン リン・・・

歩くたびに一定の感覚で、鈴の音が響く。
向かう方向は、山の方向。
明かりを持たず、家も近くになく、目を開けていても
瞑っていても、関係ない状態の暗闇の中を、
躓く事もなく、木々を避けて、普通に歩いていく。

鈴をつけさせる理由は、巫女となる娘が逃げ出そうしても
神が見つけやすいようにとか、
神のものになる巫女の存在を人に知らしめる為だとか、
色々諸説はあるらしい。

そういえば、素足だった、と
何も履いていない事に今更気が付くけれど、
踏み締めている草のお陰か、
怪我などさせる心算のない神の加護か、
痛みがないのでそのまま歩き続けることにする。
今更、帰るという選択肢は、ない。

行かなければいけない場所は解っているけれど、
初めて歩く記憶のない場所を、スピードを落とさず
すたすた歩く・・・と、

気が付けば、洞窟の前まで辿り着いていた。
目的地はここだ、と何故か理解して、
そのまま洞窟の中に入っていく・・・。

後ろは一切、振り返らず、に。

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