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楔 ---KUSABI---

第1章 壱・白羽の矢

「止めろ、クソっ、どうなっているんだ!!」

怨嗟の声すらBGMに。
集中してしまうのは、甘い口づけに、目を瞑る。
初めは躊躇いがちだったけれど、少しずつ、
相手に合わせて、ただひたすら柔らかい感触を貪る。

「・・・ンっ・・ンンンッ」

腕を体に絡めて、相手の甘い吐息すら逃さないように。
ドクンっと跳ねる心臓。

欲シイ。

一気に沸き上がった欲望に、火が付く。
お互いの舌を絡め、甘いと感じる唾液を飲み込む。
何もかもが・・・溶けそう。

『鎮めよ、清めよ、沈めよ』

深い口づけの間に直接脳裏に響く声。
逆に蒼の声や、滝の音等、一切の音は聞こえなくなって。

『鎮めよ、清めよ、沈めよ』

呪文のように繰り返される言葉。
静寂の中で、言葉と熱だけが理解できる唯一。

『鎮めよ、清めよ、沈めよ』

遠のく意識・・・くらりと傾ぐ身体。

『・・・身を捨てよ』

ドボンッ

身体が水没すると同時に、意識も水の中に飲み込まれていく。

「花音!!」

最後に、さっきまで聞こえなかった筈の蒼の声が響いて、



消えた。

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