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楔 ---KUSABI---

第1章 壱・白羽の矢

蒼が何故?と思ったけど、体はもう自由に動かせなく
なっていた。水を吸った着物の重みもあるだろうけど、
金縛りのように、ピクリとも動かせない。
唯一、動かせたのは瞼。少し、目を見開いた。

『・・・煩い』

対する男の気怠い声と、

「返せぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっっっ!!!!」

こちらに必死になって走ってくる蒼の声が響き渡る。
手を伸ばし近寄り、溜まる水の中に一歩足を踏み入れる
寸前で、

ドンッ

見えない壁が蒼を止まらせた。

『・・・後をつけたか。執念、か』

「当たり前だ!!」

『では、その執念に対して、身をもって後悔せよ。
この娘は、既にわたしのもの』

「黙れぇっ」

ドンッ・・・とまた、音が聞こえた気がした。
滝の音で聞こえるわけがないのに。
私と蒼の間を阻む透明な壁に体当たりは、幾度となく続く。

蒼の方に気を取られていた私は、視界が急に覆われ、
唇に柔らかいものが当たった事によって、我に返った。

「お前ぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!」

男の姿をした神を呪う蒼の怨嗟の声が響き渡る中、
初めは柔らかく啄むだけの口づけは、少しずつ深まり。

「・・・ンッ」

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