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楔 ---KUSABI---

第1章 壱・白羽の矢

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「・・・かの」

膝から崩れ落ちる、蒼という男を横目で見る。
ここまで、執念深い男は久しぶり。中々いない。
正式な洞窟の入り口は、今日は新たな巫女を引き入れる
為の通り道で、部外者を一切入れない筈だし、

あの・・・葵という名となった娘を引き入れた
裏口とも呼べる入り口は、
基本、何人にも知られてはならないので、
かなり・・・用心深く術をかけて解らなくしていた筈
なのだが、幼馴染への執着心が、術をも破壊したのか。

それとも、術にかかりづらい抑々の素質があるのか。

『・・・面白い』

絶対的優位であると解っているからこその、面白さ。
相手は所詮、力を持たない人。

項垂れていた頭を上げ、顔がこちらを向いた。
初めは焦点が定まらなかった虚ろな目に
少しずつ、生気が宿る。
蒼という男の目に映るは、わたし。
目を見開き、瞳孔が、広がる。
青白かった肌は、高揚したのか一気に赤みを帯びて。

「お、お前えええええええっっっっ!!!!!!」

腹の底から発する再びの怨嗟とともに、
濡れる事を気にせず急ぎこちらに向かってくる、
目は血走り、わたし以外何も見えていない。

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