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楔 ---KUSABI---

第1章 壱・白羽の矢

阻んでいた見えない壁は、術を解除したから既になく、
濡れる事を厭うことなく、ただまっすぐにやってきた。
軽々と目の前に来ると、襟をつかんで揺さぶりながら、

「何処に!!!」

襟をつかんで揺さぶってくる。

『わたしの世界へ送った』

そう、ここはわたしの世界の入口であり出口。
今からあの娘は、わたしとともにある。
奇跡が起きない限り、期限付きではある・・・が。

「返せっ、返せ・・・返せよ・・・」

娘が身に着けていた髪飾りひとかけらも存在しない
澄んだ水の中に佇む今の光景は滑稽だ・・・と思う。
目の前の喚く煩い男はさっさと始末してしまえば話は早い
・・・早いのだ、が。

本来なら、正式なルートを通り、正式な順序を経て
この世界での巫女の儀式を終える筈だった葵の巫女が、
蒼という男の存在によって、手順が狂った。

他の巫女達は、正式な手順を今頃経ている筈。

そこには波風立たないわたしの世界の平穏すぎる
日常に対しての波乱を面白がるわたしの都合もあって。

さて、この執着心をもっともっと高めたら
どうなるだろう・・・か?

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