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楔 ---KUSABI---

第2章 弐・違う世界

「ふふ」

零れる笑みは可憐さからほど遠く、どす黒い。

『楽しいか』

「ええ、とても」

内庭が見えるように戸は開け放たれ、開放的だ。
隣に座り、酒を飲む主の顔を上目遣いで仰ぎ見る。

「お願いを聞いてくださって、ありがとうございます」

襖の向こうには、私が主にお願いして、呼び寄せた娘が
未だ眠る。彼女にとって束の間の平穏。

十八になったら選ばれる娘は、適当ではない。
気まぐれではあるけれど、一応神なりの基準があるらしい。
私のお願いを聞いてくれた、というよりは、
お願いを聞いた神が気まぐれを起こした、といった方が
実際は正しいけれど、そこは神を立てておく。

例えば、この世界に引っ張られる前の、紐を選ぶ儀式。
選ばれた娘全員が、上手く紐を選べるわけでもない。
本質は、紐を選ぶというより、紐に選ばれる儀式。
選んだ紐を首にくくり、一度死を味わうことによって
こちらの世界に送られる仕組みなのだけど、
紐に選ばれず、適当に選んだ娘の末路は、死のみ。

蒼という男があの娘をそこまで追ったのは、
想定外だったけれど、無事娘はこの世界にきた。
ずぶぬれだった身体を綺麗に洗い、髪は乾かし、眠る娘。
未だ何も知らない娘が起きるのが待ち遠しい。

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