
キラキラ
第9章 どきどき
一方、柚子ジュースの相葉先輩は、一口飲んで変な顔をしてる。
「…………すっぱ。なんだ、これ」
新製品ってあったから、買ってみたんだけど~って、眉をさげてる。
普通、柚子味って、もう少し甘いはずなんだけどなあ…………っていいながら、相葉先輩はストローの飲み口を、俺に向けた。
「ちょっと、飲んでみ」
……………………。
マジで?
思ったのは一瞬。
野郎同士で飲み物をシェアするなんて普通のこと。
むしろ、ここでためらう方があやしい、と、俺は、口をあけて、相葉先輩の手からそれを吸い上げた。
「…………っ」
確かにこれは…………
「な?な?」
「……すっば~……」
「だろー?おかしいよな、これ!」
言って、相葉先輩は、あははって笑いながら、やけくそのようにジュルジュルっと、残りを一気飲みをして、目をぎゅっとつぶったかと思うと、俺の手をつかんで持ち上げ、いちごジュースをちゅうっっと飲んだ。
「口直し!サンキュ」
「…………いえ」
…………いろいろ刺激的なんだけど。
相葉先輩にこんなことされちゃなあ…………。
先輩のちょっと薄い唇が触れたストローを手に、俺は、固まってしまっていた。
てか、こんなことで、どきどきしてるなんて、俺って、けっこうやばいやつじゃね?
「…………」
ゆっくりストローに口をつけ、いちごジュースを吸い上げる。
眩暈がするほど、甘くて美味だった。
「…………で、どこだっけ?」
相葉先輩は、何事もないかのように(実際、何もないのだが)、教科書をパラパラ開いた。
「…………35ページです。演習問題のとこ」
相葉先輩の、仕草を見つめる。
なんか。
分かった気がする。
多分、俺は、自分で思うよりずっとこの人のことが好きなんだ。
笑顔を独り占めしたくなるくらい。
指に、腕に触れたくなるくらい。
飲み物のシェアごときで、胸がどきどきするくらい。
だって、憧れが明らかに度を越してるもの。
相葉先輩は、長文の一部をシャーペンで指す。
「…………二宮さあ…………この、単語の意味分かってる?」
「…………」
「辞書ひいて」
「…………はーい」
だけど、絶対ばれちゃダメなんだ。
こんな思いを、俺が抱えてるのを知って、先輩の顔から笑顔が消えたら、多分俺は、立ち直れない。
