
キラキラ
第12章 ほたる ~バースト2~
Kazu
行くあてなんてどこにもなかった。
春の夕暮れは、昼間の温かい気温を急激にさげてゆく。
黒いスヌードに口元をうめて、俺は小さく震えた。
「寒いな……」
必要以上に感じるこの寒さは、きっとまだ熱が下がってないせいだろう。
頭も腰もだるい。
今更ながら、自分のおかれた悲惨な状況に笑いがこみあげる。
飛び出してきた大野さんの家は、おそろしく豪華なマンションだった。
ホテルのようなエントランスを、ドキドキしながら足早に駆け抜けた。
もうこれ以上傷つきたくない。
裏切られたくない。
優しさを知ってしまったら、なおさらダメージはきついから。
だから、逃げた。
本心なんか知りたくない。
真実を知りたくない。
大野さんと、翔が差し出した手を、俺は離したんだ。
優しかった眼差しと温もりは本当だったろう。
背中をさすってくれた翔の手も、俺の額にあててくれた大野さんの手も、きっと真実。
でも…………だから。
このまま、いい人だった記憶で、残しておきたい。
ポツポツゆっくりと歩きながら、繁華街に出た。
自宅を出た初日に、高校生が一人で夜を越す場所なんかないことを思い知っていた。
ホテルなどの宿泊施設はもちろん、ネットカフェや、カラオケなど、すべて未成年という理由で断られた。
公園のベンチで夜を越したのは初めてだったが、あまりにも寒かった。
はたして、今の自分の体調で、野宿はできるだろうか。
どうしようかなあ…………
自宅に戻る気はさらさらない。
両親にはもう会いたくない。
だけど…………。
キャッシュカードは、ある
それなりの現金もある。
住み込みの仕事か何かをみつけるしかないだろうか。
色々思いをめぐらせながら、歩き続ける。
ふと気がつけば、全国展開するファミリーレストラン。
ちっともお腹は減らないが、そろそろ体が限界だった。
ギリギリまでねばるつもりで、俺は、扉に手をかけた。
いらっしゃいませぇ~何名様ですか~?
むわっとした暖房のきいた空気を体に浴びながら、俺は、重い体をひきずり店内に入った。
