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キラキラ

第12章 ほたる ~バースト2~



夕食時とあり、周りは、家族連れや団体の姿が目立つ。
俺は、丁度あいた一番奥まった席に座り、ホットココアを注文した。

何をする気にもなれず、背もたれに背を預け、はあっとため息をついた。

これからどうしよう、とか、いろいろ考えることはあるけれど。
脳裏に浮かぶのは、大野兄弟だった。

そもそもどうやって、あの家に行ったんだろうか、とか、鍵がないからやむなく開けっ放しで出てきてしまったけど、大丈夫だったろうか、とか。

翔のお粥美味かったな、とか。
大野さんの仕事はなんだろう、とか。

他人にあれだけ優しくされたのは久し振りだったからか、考えることはあの二人のことばかり。


嬉しかったな……。


大野さんの手。大きくて温かくて。
翔の声が優しくて。


初対面の俺に、なんで、と思うほど、お人好しな二人だった。

そんな二人の手を離してしまい、…………少しだけ残念だ。




運ばれてきたココアに手をつけることもせず、俺は、背もたれに背を預けたまま目を閉じた。

休息がほしかった。 







誰かが至近距離で会話をしてる。




「あ、大丈夫です、連れなんで」

「よかった、すっかり眠り込んでいらっしゃるし、どうしようか迷っていたんです」

「すみません。ご迷惑おかけしました」





…………どこだっけ、か。ここは。
俺は、閉じていた目をゆるゆるとあけた。

耳に入ってくる、がやがやとした店内の喧騒。
ファミレスだ。
背もたれに預けていた体をゆっくりおこす。

「おはよう」

むかいに座ってるらしき人の声に、ぎくりと体を震わす。


この声…………!


弾かれるように顔をあげると、二度と会うことはないはずの、男が、にやりと笑ってこちらを見ていた。


俺がミスしてしまった男。
優しいふりして、俺を、一晩中めちゃくちゃに抱いた男。


冷や汗が吹き出した。
声も出ない。
視界が急激に狭くなった気がする。


「家出少年が行きそうな場所を、ぷらぷらめぐってたら、本当にみつけちゃったよ?」

楽しそうにしゃべる男に、動悸がする。


「…………」


立ち上がり、伝票を手にした。


…………逃げなきゃ。


ところが、一歩踏み出した体は、ふっと力がぬけた。
立ちくらみ。
視界がブラックアウトする。



…………………逃げなきゃ。


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