キラキラ
第13章 ミチシルベ
Sakural side
衝撃の再会から、二週間。
ヤンキーであった過去は微塵も感じさせない清潔感のある風体で、松本くんは、頑張っている。
俺は、カルテをチェックしながら、患者さんの家族とにこやかにしゃべっている松本くんを目で追っていた。
つんつんしていた松本くんの学生時代は、人を寄せつけないいきった空気をもっていたものだ。
ちょくちょく怪我をしては訪れる彼を、からかうのは、実に楽しかった。
強がってるだけ。いきってるだけ、というのが手に取るように分かって。
所謂、大人の余裕ってやつか。
しかし今の彼は、とても物腰も柔らかく社交的だ。
(…………大人になったなあ、松本くん)
そして、きっと、もともと頭もいいのだろう。
現場では、飲み込みが早い新入り、と位置付けられ、可愛がられている。
じっと見ていたら………ふと顔をあげた松本くんと目があった。
ドキリと心臓が鳴る。
大きな澄んだ目には、人を惹き付ける目力があり、俺を捉えて離さない。
松本くんは、そのままにこりと笑って、ひらひらと手を振ってきた。
思わず笑顔を返しそうになったが、ギリギリ踏みとどまり、慌てて口角をあげただけの真面目な顔をして、その場をしのぐ。
(上司の俺が何やってんだ)
松本くんは、おかしそうに肩で笑って、看護師長のもとへ歩いていった。
(ヤバい…………調子狂う………)
再会した日に、松本くんに、キスされたことが唐突によみがえり、顔に熱が集中していくのが分かった。
背も高くなり、肩幅も胸板も何もかも男らしくなった彼は、少しかがむようにして、素早くメガネをとり、俺の唇を奪った。
チュッという柔らかい感触が、鮮明に残る。
…………無意識で、指で唇に触れていたのだろう。
「…………櫻井先生?どうしました?」
傍らで点滴の準備をしている看護師に、不思議そうに声をかけられた。
いや、なんでも、と普通の顔を作り直すのに苦労した。