キラキラ
第13章 ミチシルベ
***** ***** *****
バタバタと立て続けに入った患者の処置を、ようやく終え、少し落ち着いたのを見計らって屋上に出た。
太陽が輝く外の空気は、体に染み付いた薬品の匂いを優しく中和してくれる。
俺は、大きく深呼吸してのびをした。
「ふう…………」
関係者しかあがってこれないここは、誰もいない。
ストレッチをしながら、ぐるりとまわりを囲む柵に向かって歩いていくと、ふと目のはしに人影がうつった。
「…………?」
入り口からは死角になるから分からなかったが、自分のいる場所とは反対方向で、ひっそりと立ってる人物を確認する。
紺のスクラブを着たその背中に見覚えがあった。
(…………松本くん)
柵にもたれた両腕に顔をうずめてる。
全身から、やるせないオーラがみえる。
(…………どうした?)
声をかけようとして…………迷った。
どこからどうみても落ち込んでる。
失敗したのか?
看護師長にでもしぼられたか?
なににしろ上司である俺に見られたくないかもしれない、と思った。
こんな人のいない場所を選んでいるのもその表れ。
(…………帰ろう)
俺は、見なかったことにしてやることに決めた。
ところが、そっと踵をかえしかけたその時、
ピピピピ…………
「!」
「?!」
タイミング悪く胸ポケットのPHS が鳴った。
弾かれるように、こちらを振り向く松本くんに、驚かしてごめん、と目配せしながら、ため息をついて、通話ボタンを押す。
振り向いた松本くんの赤い鼻と潤んだ瞳。
そんな顔を見てしまったら、降りれないじゃないか。
PHSに耳をあてる。
「はい櫻井。…………はい………うん。…………ああ、ありがとう」
松本くんは、再び後ろをむいて、手のひらで何度も目をこすってる。
通話を切り、胸ポケットにPHS をおさめながら、俺は、松本くんにそっと近づいた。
静かに隣に立つ。
顔を見られまい、と、下を向いてる松本くんは、すんと鼻をすすってから、ぼそっと言った。
「…………行かないんですか」
「うん。今落ち着いてるから、このまま昼休憩してきて、って山田先生が」
「…………そうですか」
沈黙が続いた。
バタバタと立て続けに入った患者の処置を、ようやく終え、少し落ち着いたのを見計らって屋上に出た。
太陽が輝く外の空気は、体に染み付いた薬品の匂いを優しく中和してくれる。
俺は、大きく深呼吸してのびをした。
「ふう…………」
関係者しかあがってこれないここは、誰もいない。
ストレッチをしながら、ぐるりとまわりを囲む柵に向かって歩いていくと、ふと目のはしに人影がうつった。
「…………?」
入り口からは死角になるから分からなかったが、自分のいる場所とは反対方向で、ひっそりと立ってる人物を確認する。
紺のスクラブを着たその背中に見覚えがあった。
(…………松本くん)
柵にもたれた両腕に顔をうずめてる。
全身から、やるせないオーラがみえる。
(…………どうした?)
声をかけようとして…………迷った。
どこからどうみても落ち込んでる。
失敗したのか?
看護師長にでもしぼられたか?
なににしろ上司である俺に見られたくないかもしれない、と思った。
こんな人のいない場所を選んでいるのもその表れ。
(…………帰ろう)
俺は、見なかったことにしてやることに決めた。
ところが、そっと踵をかえしかけたその時、
ピピピピ…………
「!」
「?!」
タイミング悪く胸ポケットのPHS が鳴った。
弾かれるように、こちらを振り向く松本くんに、驚かしてごめん、と目配せしながら、ため息をついて、通話ボタンを押す。
振り向いた松本くんの赤い鼻と潤んだ瞳。
そんな顔を見てしまったら、降りれないじゃないか。
PHSに耳をあてる。
「はい櫻井。…………はい………うん。…………ああ、ありがとう」
松本くんは、再び後ろをむいて、手のひらで何度も目をこすってる。
通話を切り、胸ポケットにPHS をおさめながら、俺は、松本くんにそっと近づいた。
静かに隣に立つ。
顔を見られまい、と、下を向いてる松本くんは、すんと鼻をすすってから、ぼそっと言った。
「…………行かないんですか」
「うん。今落ち着いてるから、このまま昼休憩してきて、って山田先生が」
「…………そうですか」
沈黙が続いた。