
キラキラ
第24章 バースト5
Jun
俺が文庫本のページを繰る音と、翔のシャーペンを走らす音しか聞こえない、静まりかえった夜更け。
唐突に空気が、僅かに動いた、と感じたのと同時に。
ガチャ…
と、遠慮がちに玄関の鍵を開ける音が聞こえた。
俺は、読んでた文庫本から、ふっと顔をあげる。
最大限の配慮を持って、その重厚な扉が開けられ…閉められた気配がした。
続いて、衣擦れの音とともに、ペタ、ペタと廊下を歩く音がドア越しに聞こえる。
「……」
智さんが帰ってきたんだ、と分かり、俺は読んでた本にしおりを挟み、そっとページを閉じた。
立ち上がろうとした気配に感づいたのか、机に向かっていた翔が振り返った。
「……どうした?」
「あ…いや、智さん帰ってきたから、お邪魔してるって、挨拶行ってこようと思って」
「…もう遅いし、別にいいよ」
翔が、時計に目を走らせる。
俺もつられて、棚に置かれたデジタル時計に目をやると12時前だった。
「でも…今日は突然泊まることになったし、俺」
戸惑うように、ドアの向こうを見つめる。
「俺がお邪魔してること智さん知ってる?」
「……メールはしといた。それに、潤なら智兄はなにも言わないよ」
何を今さら遠慮してんだ、と翔がくすり、と笑った。
そっかな……と、布団の上でお山座りをして、膝に顎をのせる。
智さんの帰りが今日は遅いということを忘れて、山のように肉を焼いてしまった、と悲痛な声で翔から電話があったのが夕方7時。
『え……今から?』
『うん。食うの手伝って』
『俺、もう飯食ったよ?』
『少しくらいなら食えんだろ。俺とかずじゃぜってー無理な量だもん』
『冷凍したら?』
『……おまえ俺に会いたくないの?』
『いや、そんなことっ』
『じゃあ、決まりな。で、そのまま泊まれよ。金曜だからいーだろ。冷めるから五分以内に来いな?』
と、一方的な召集がかけられ、返事をする間もなく、通話を切られたのだ。
翔の、少々強引なやり方は、遠慮ばかりする俺にとっては、ちょっとばかり……いや、大分嬉しい。
恋人になったとはいえ、受験生の翔に、頻繁に会いたいとはさすがに言えず、誘ってもらって家に行くか、連絡をもらって学校帰りに会うか、しかしてないから。
本当は、もっともっと会いたい。
もっともっと話がしたいよ。
