
キラキラ
第24章 バースト5
母親に「友達のうちに行く」、と、声をかけ、翔に会える、とうきうきしながらリュックに着替えを詰め込み、家を飛び出したのが、電話を切ってきっかり3分後。
そのまま近くの公園に飛びこみ、誰もいないことを十分確認してから、集中してチカラを行使した。
最近やっとチカラが安定してきて、落ち着いた状況なら割と自在に操れるようになっている。
だからこそ人に見られることを最大のタブーと位置付け、用心に用心を重ねて、こうやって時々使ってる。
そう。瞬間移動ってのは、慣れりゃものすごく便利な能力だった。
予告通り山のような肉を食わされ、三人で賑やかな夕飯を終える。
……で、翔の部屋にひいてもらった布団の上で、いつものように文庫本を読みふけっていたところなのだが。
俺は、膝に顎をのせたまま、うーん……と唸りながら考えた。
だけど……眠ってしまってたんなら別だけど、起きてるんだから、智さんを知らんぷりするのはダメな気がするな。
「……やっぱり声だけかけてくる」
生真面目な性格が黙ってない俺は、文庫本を傍らに置いて立ち上がった。
自分が留守の間に、他人がいたら嫌だよね。
ましてや、智さんは、この家の主人なんだから。
翔は、頬杖をついてそんな俺を見上げ、そうか?と笑んだ。
「……えらいなお前」
「だって…礼儀だもん…」
そう言ってドアノブに手をかけた俺に、翔は小さく、ああ、言っとくけど、と言うから、振り返った。
すると、翔は、少しイタズラっぽい目で、
「びっくりすんなよ」
と、言った。
「……?…うん」
何のこと?
曖昧に頷いて、俺は扉を開けた。
長い廊下を静かに歩き、突き当たりのリビングを目指す。
最大限、照明が絞られたオレンジ色の柔らかな光が扉のガラス越しに見える。
俺は、そっとリビングに足を踏み入れた。
静かな部屋に、カチャカチャというグラスを触る音が聞こえる。
キッチンの電気が煌々とついてるのに気づき、そちらに目を向けると、冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出してる智さんの後ろ姿を捉えた。
「…智さん?」
「…ん?」
こちらを振り返った智さんを見て、俺はドキリとした。
え……?智さん…だよね?!
「ああ……潤か」
そこには、いつものホニャホニャふんわりした彼は、どこへというような、強烈な色気を纏った人物がいた。
