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キラキラ

第26章 10カゾエテ  ~Count 10~

Jun



大きなボストンバッグを肩にかけたまま、目の前にそびえたつ荘厳な学舎を見上げた。

俺は、いよいよ今日からここ、嵐学園の寮に入り、三年間という時を過ごす。


「やっとだな…」


文武両道をうたう、この学園に進学が決まったとき、俺は心底嬉しかった。

これで、やっとあの息のつまりそうな家をでることができると。

いつもいつも、できのいい兄貴と比べられるのが苦痛でしょうがなくて、自分で県外のこの学園を志望した。

レベル的には、兄貴の通ってる学校より、数段おちるものの、両親は特に反対することもなく。
むしろ、扱いづらい俺に手を焼いてる風だった母親なんかは、嵐学園が全寮制だと知り、これ幸いとばかりに、合格発表もまだのうちから、入寮準備を進めていた。


『潤は、賢いからね。きっと受かるわ』


………思ってないこと言うなっつーの。


兄貴にしか興味のない母親なんて昔から大嫌いだった。
兄貴だけは、「体に気をつけろよ」なーんて、優しい言葉をかけてくれたけど。

ひねくれものの俺は、ああ、と一言返しただけで、顔もろくすっぽみないで家を出たのだ。



「………よし」


ふっと息を吸い込んで。

この学園での生活が楽しいものであることを願いながら、………まあ、このまま家にいることを思えば、はるかにマシであろう………学園の門の中に、俺は静かに足を踏み入れた。


寮は、同じ敷地内の奥にあるらしい。

木漏れ日のなか、ジャリジャリと砂利道を歩く。

一番を目指して来たせいか、周りに俺と同じような、初めて感のあるニユーフェイスはおらず。

俺は、深呼吸をしながらいつになく、ご機嫌に歩いていた。


ふと。


「やめなよ」


どこからか凛とした声がした。

木立の奥の方。
何気なく目をむけたら、俺と同じように大きなカバンを持った学生の後ろ姿が見えた。

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