キラキラ
第26章 10カゾエテ ~Count 10~
「聞いてんの?」
後ろ姿の学生は、誰かに説教しているかのような口調で、もう一度声を張り上げた。
ここからは見えないが、そこに誰かもう一人いるのだろう。
優等生気取りのやつが、いきって、いい格好をしているだけのようにも見える。
俺ははあっとため息をついた。
入学早々、揉め事かよ………。
こんな、頭の良さそうな学園にも、面倒なことはおきるんだな。
野郎ばかり集まりゃ、そんなもんか………。
まあまあ、そういった場面にも免疫のある方の俺だったが、さすがに初日から、ややこしいことに極力巻き込まれたくない。
俺はそのまま通りすぎようと、目をそらし、そっと身を翻しかけた。
ところが、
「こんなとこみつかったら、入学取り消………っ」
変な呻き声をきいて、思わず振り返ったら、その学生が崩れ落ちるところが見えた。
………おい、マジか。
唖然として立ち止まっていると、その崩れ落ちた学生の傍らで、小柄な金髪の学生がゆらりと立ち上がった。
整った鼻梁に、タレた瞳。
パット見、優しそうな顔の造作をしているのに、その瞳の色は氷のように冷たくて。
弧を描く口元には、くわえ煙草。
「………るせぇんだよ、てめぇ」
小さく吐き捨て、そのまま木立の奥に歩いていってしまう。
いやいや。
学園内でいきなり煙草はダメだろうがよ………!
どこのヤンキーだ、お前は!
思わず、
「おい!」
と叫んでしまった。
性格上黙ってんのは、やはり性にあわない、と、一言声だけでもかけてやろうかと、歩み寄っていく。
だが、その金髪は、ちらりと俺を一瞥して、そのまま歩いていった。
一瞬、つかまえようかと迷う。
でも。
………深追いは面倒かもな。
俺は、あきらめて、うずくまってる学生の横に座り込んだ。
「おい。おまえ、大丈夫か?」
「………大丈夫」
玉のような汗をかいてる顔は、苦しそうに歪んでて。
喧嘩慣れしてないのは、一目みて分かった。