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キラキラ

第30章 hungry 2



大野さんは、突然起き上がった俺に、びっくりしたように目を丸くした後、心配そうに、


「……起きて大丈夫?」


と、気遣ってくれた。



久しぶりにみた大野さんは、最後に会ったときより、スッキリした顔になっていて。

深く刻まれていた目の下のクマとかもなく、いつもの綺麗な大野さんに戻っていた。


……そうだよな。
試験終わったもんね。


俺は、コクリと頷いて、ちょっとだけ笑ってみせた。



「はい……ちょっと腹の調子が悪かっただけなんで……」

「ふふ……そっか」



その表情に胸がしめつけられる。

大野さんの笑顔がたまらなく好きだ。
どうしてこんなに綺麗な瞳をしてるんだろう。

布団を掴む手に力がこもる。


だめだ、俺やっぱり嫌われたくない……!
この人をずっと見ていたいよ……。


俺が、密かに泣きそうになるのを我慢して、じっと黙ってると、大野さんは、指で前髪をよけながら、のんびりと微笑んだ。



「今日はね……職員室に、報告に来てたんだ」


三年生のこの時期は、もはや卒業式まで、各々の入試の都合で動くため、基本自由登校だ。

そして、大体学校に来るのは合否の報告のため、と決まってる。


美大の合否……出たんだ。


「えっと……」


どうだったんですか……?


俺が、尋ね方を考えていると、大野さんは、すかさず小さくVサインをして、ふにゃっと笑顔になった。


「合格したよ」

「え!!!マジですか!!!」


思わず、大声がでた。


「うんマジ」


大野さんの嬉しそうな顔に、ほんとなんだ!と、一気にテンションがあがった。

うわあ……!うわあ!

俺は、さっきまでの鬱々とした気分もふきとび、思わず大野さんの手をとってぶんぶん振り回した。


「おめでとうございます!すげえ!」

「んふふ。ありがと」


目を細めて、照れたようにその細い肩をすくめる大野さん。

バスケで決まってたスポーツ推薦も蹴り飛ばし、この選択肢のために、持ってたものを全て白紙にして挑戦したのだ。

大野さんの、その努力と情熱は、計り知れないものがある。


……ほんとに。


「え……なんで櫻井が泣くの?」

「いや。なんか。感動しちゃって……」


勝手に潤んでくる瞳を、ぐいっと乱暴に拭う。






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