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キラキラ

第30章 hungry 2


「……可愛いやつ」

大野さんの呟いた言葉に、自分の耳を疑う。


可愛いって。
俺が?
逆だ、逆!


鼻をすすり、大野さんを見ると、大野さんは菩薩のような目で俺を見つめてた。
気恥ずかしくなり、ぐいぐいと鼻水も乱暴にふく。
ふと、元気なあの方を思い出した。


「……ヨシノさん喜んだでしょう?」

「うん。号泣(笑)」

「ご両親には……?」

「言ったよ。こっちは逆に合格するとは思ってなかったみたいで、驚いてた」

「そうですか……」


穏やかに応えてくれる大野さん。
まるで、俺たちの間には、何事もなかったかのよう。


でも……そうじゃないんだ。


俺は、コクンと息をのみ、じっと、大野さんを見据えた。


嫌われたくないけど。
このままでもいられない。


大野さんの瞳は、どこまでも澄んでいて、吸い込まれそうだ。

まるで、なあに?と言われているようで、俺は意を決して震える声を絞り出す。



「……ね……大野さん。俺のこないだの言葉……覚えてますか」


大野さんは静かに瞬きを一回して、頷いた。


「……好きだ、という……あれかな」

「そうです」



大野さんは、眉をさげ、困ったような顔になった。



「櫻井は……俺とどうなりたいの?」

「どうって……」



焦った。
そんな返しがかえってくるなんて思ってない。


俺は、ドキドキする頭で一生懸命考えた。


「……ずっと……一緒にいたいです」

「俺と?」

「はい」

「………」

「………」


大野さんが、俺を試すように、じっと、俺をみるから、俺も全力でその視線を受けた。


「……あのね、俺、すごくこういうこと多いの」

「……こういうこと……って」

「好きだって、言われるの」

「……」

「でね、付き合うでしょ。でも、そのうちみんな離れていくんだ。俺が分からないって」

「……そんな」

「だから……櫻井にはそんな風に思われたくないんだ」

「俺は……!」

「……櫻井には嫌われたくないんだ」


大野さんの静かな声が刺さる。

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