テキストサイズ

影に抱かれて

第16章 善か、悪か

葬儀を明日に控えた午後、ジャンに呼ばれたリュヌは、屋敷のはずれの部屋を訪れていた。

部屋に入ると、少しの時間も惜しいのだろう……ジャンが厳しい顔をして書類に目を通している。

ジュールを失脚させるために色々と奔走しているのだろうか?
その顔に濃い疲労を滲ませたジャンは、この数日間でめっきり老け込んでしまったように見えた。

「ジュール様には気付かれていないじゃろうな?」

「はい……気分がすぐれないと、今は休んでいます」

「今日はもうこのまま……お訪ねしたりせんことじゃ……お前のために」

「ウイ……」

明日の葬儀では、ジュールは喪主としての挨拶をし、正真正銘フランクール家の当主となることになっている。

しかしジャンは、夫人の死を悼む人々の前で……ジュールの罪を暴き、それを阻止しようとしていた。そしてそのまま警察に訴え出て、法の裁きを受けさせようというのだ。

リュヌにもある役割が与えられている。
それはこの恐ろしい親殺しの動機のひとつとも言える、夫人からリュヌが受けた一連の仕打ち、そしてその原因ともなった出生の秘密を証言することだった。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ