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影に抱かれて

第16章 善か、悪か

それは亡き夫人の、そしてフランクール家の名誉を傷付ける話でもあったが、ジュールが夫妻に殺意を抱く原因となったのは明らかにリュヌの受難……そして、ジュールとリュヌの関係に対する妨害である筈だから、リュヌの証言が担う役割は大きかった。

そのことによって、ジュールは投獄はもちろんのこと死罪も十分に考えられたが、ジャンの主張は正しいに違いなく、リュヌはそれに口を挟むことができなかったのだ。

育ての親ともいうべきジャンは、いつだってリュヌに正しい道を指し示し、導いてくれた。その人柄をリュヌは心から尊敬し、愛していた。

ただ、ジュールと自分だけが知っている塔の入り口の仕掛けについてをジャンに教えることだけは躊躇われた。

夫人を押した白い手が誰のものなのか……それを知る手立てが無い今、この情報がジャンに伝われば背中を押すことができるに違いないというのに。

……自分が原因と聞いて、ジュールを簡単には責められないという気持ちをリュヌは強く持っていた。

殺人……しかも親殺しが酷い罪だということは分かる。しかしそれは裏を返せば、それほどの罪をジュールは自分への愛のために犯してしまったということだ。

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