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影に抱かれて

第16章 善か、悪か

突然のことに、リュヌは言葉を発することができなかった。

初めてきちんと向かい合った母は、自分と同じブロンドの髪に青い目の……美しい顔立ちの女性だった。

ただ、その顔は虚ろで、知性の光というものがまるで感じられない。リュヌが目の前に立ったことさえ気付いていない様子だ。

「これは……」

「驚かせてすまん……見ての通り精神を病んでおる。医者のもとに隠されているところを見つけたんじゃ」

胸が締め付けられた。

「ジュール様から言いつけられて世話を頼まれていたメイドもこちら側についておる。イネスは……わしの顔ももう分からんようだが、夜にはリュヌの名前を呼んで泣くんだそうじゃ……メイドもすっかり同情しておった」

「隠されて……その費用はジュールが……?」

「当然じゃろう……! このようにしたのはジュール様なのじゃ。それにお前にイネスのことをひた隠しにしておることからしても、誠意があるとはとても思えん」

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