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影に抱かれて

第3章 嵐の午後

動きを止めたジュールが空を見上げると、リュヌが弾かれたように身体を離し叫ぶ。

「あっ! 木戸が開けっ放しだ!」

いつもはひんやりしている塔の中も、今日の様な真夏の天候ではさすがに暑く感じられ……先ほど花を供えてきた時に空気の入れ替えをしたままだったのだ。

リュヌは一人で走り出した。

祭壇の隣にある小さな木窓。
あそこからこの雨が吹き込んだら、祭壇や母子像は無事では済まないだろう。

ジュールが作ってくれたあの場所だけはどうしても守らなければならない……
この時ばかりはリュヌが先に立ち、階段を走って駆け上がる。

十歳の少年に成長したリュヌはもう、あの螺旋階段も怖くはなかった。しかし、落雷に対する恐怖心はあった。
母子像のことが無ければ、屋敷に戻って自分のベッドに潜りたいぐらいだった。

「ああ、近くに落ちた! リュヌ……高い所は危ないぞ!」

恐怖を感じながらも、祭壇のためにと一心に塔の先端へと急ぐリュヌに対して、ジュールは大股で段を抜かしながら悠々と後に続く。そしてその口もとには、この状況を愉しんでいるかのような笑みさえ浮かべていた。

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