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影に抱かれて

第6章 ケージ・エピネ

そして森を抜け、遠くの山に目をやると、段状の丘にある集落が見えた。

もしかして、あれは……

「ジュール! あれって……!」

そう思わず言葉に出し、いつも隣に居る筈のジュールがもう居ないのだということに今さらながらに気付く。いつだって一緒だった二人なのに、今は四人乗りの馬車にポツンと一人座っている状態だ。

鷲の巣が卵や雛を守るために、山や崖の頂上にある様子と似ているため、あのような山の上の集落を〝鷲の巣村〟と呼ぶのだが……

以前ジュールに教えてもらったはずのその呼び名を思い出せずリュヌはもどかしかった。

頭に浮かぶのはそのことを教えてくれた時の、森の木漏れ日に輝く美しいジュールの髪。そして輝く笑顔……

思えば、自分が何かを初めて見たり知ったりする時、いつもそこにジュールが居た。分からない事は、ジュールがいつだって答えてくれていた。

そんなジュールと離れて、これからどうやって生きて行けばいいのだろう……そう考えると恐ろしく不安だったが、昨晩一睡もしていなかったのがこたえて、リュヌは頬に涙の痕を残したまま深い眠りに落ちていた。

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