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影に抱かれて

第8章 心のままに

「でも君が拒否してくれて、事なきを得た。信じて欲しい。僕が実際したことは、リュヌが出す手紙と、フランクール家から来る手紙を処分することだけだ。もう嘘はついていない。それだけでも十分酷いことだけど……」

だから手紙が来なかったのだ。

フランクール家の、ということはジャンからの手紙も含まれていたのかもしれない。ジャンからも二年間に渡って音沙汰がないことにリュヌはようやく合点がいった。

「なぜ今、君に打ち明けたのかということなんだけど……夫人が今度は君に帰ってくるようにと言っているんだ。理由は分からないけど、勝手な話だよね……今さらリュヌが戻って、屋敷の人たちになんて説明するつもりなんだろう。生き返りましたって……言うのかな」

屋敷に戻れる……? これ程までに夫人を傷付けた自分に、そんなことが許されるのだろうか。

それに、生き返るとは……どういう意味だろう?

「……生き返るってどういうこと?」

「やっぱり知らないよね……。フランクール家では、リュヌはもう死んだことになっているんだよ。実際に亡き者にすることも、信用を失墜させることにも失敗した夫人が業を煮やしたんだと思うけど……酷いよね。それでひとまず夫人からの恐ろしい指示が止まったのだから、それは良かったんだけど……」

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