テキストサイズ

影に抱かれて

第8章 心のままに

やはり夫人の嘆きと悲しみは相当のものだ。きっと伯爵も同じ気持ちだろう。だったらやはり戻る訳にはいかないとリュヌは思った。それに、気になることもあった。

「それにしても……なんで今頃僕に戻ってきて欲しいなんて思うんだろう……」

殺そうとまで、したのに……

「僕にもはっきりとは分からない。多分、一年前に伯爵が亡くなったことに関係があるとは思うんだけど……」

「旦那様が?! どうして……!」

あの優しい伯爵が事故で亡くなった……まだ若々しく力に溢れていた伯爵の姿が胸に蘇る。

とても信じられない。

しかしそれが本当だとしたら……ジュールは今、どんなに傷ついているだろう。ああ、こんな大切なことも自分には知らせてもらえなかったとは……

「それとね、ジュール様がちょっとおかしなことになっているみたいなんだ……詳しくは僕も知らないんだけど」

「おかしなことって……ジュールに何があったんだろう。奥様が呼び戻してくれるなんてよっぽどのことがあるんだよ、きっと……」

混乱するリュヌに、ドゥルーはベッドの下から手紙の束を取り出した。その分厚い束は一体、何十通あるだろうか……

ストーリーメニュー

TOPTOPへ