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影に抱かれて

第8章 心のままに

「これを……。実はジュール様からの手紙だけは捨てずに取ってあるんだ。いつかリュヌに渡せる日が来るかもしれないって……。でも、伯爵の死後に届いたのは一通だけだ。これ……ごめん。急に手紙が来なくなってしまったから、気になって中を見てしまったのだけど」

束の一番上の手紙だけは封が開けられていた。手紙を読まれたことは気になったが、捨てずにおいてくれたことをリュヌは感謝した。

「ありがとう、ドゥルー……読ませてもらうよ」

震える手で手紙は開かれた。

白い便箋を開くと、リュヌの目に飛び込んで来たのはジュールの懐かしい筆跡……

いやしかし、リュヌの記憶にあるジュールの書く文字はもっと自信に満ち溢れていた筈だが、この手紙の文字はところどころ乱れ、今にも消え入りそうなところすらあった。

『ああ、リュヌ。君が死んでしまうなんてとても信じられない。信じたくない……。僕たちの中を引き裂く汚い大人たちの嘘だと……そう言ってくれ! そうでないと僕は気が狂ってしまう……だって今もまだ君をこんなに愛しているのに! 僕たちを侮辱する人間はもういないよ。なのになぜ君は去ってしまったんだ。ああ、会いたくてたまらない……何度も言う。僕は気が狂いそうだ……』

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