
ビタミン剤
第4章 こんなの、はじめて
「あのさ、翔ちゃん
俺ら、この後って?
なんかあった?
俺ぜんぜん忘れてる。」
楽屋の扉が閉まると
大きく深呼吸する翔ちゃんがいる。
俺の問いかけには返事をしてくれない。
なんで?
「翔ちゃん?
どしたの、具合悪いの?」
「どうしたのって?
あーあ、そうだよ。
むちゃくちゃ気分悪いよっ。」
「なんで?大丈夫?
俺、収録中になんかした?」
乱暴な仕草で着替え始める翔ちゃん。
俺にはまったく心当たりも理由も
訳わかんなくって、
とりあえず手早く荷物をまとめる。
「ほら、行くよ。
さっさと出るから。」
「あ、う、うん。」
今夜は翔ちゃんと2人でデート。
楽しみにしてたのに、
なんで怒ってんだろ。
でも、
原因が俺ならクルマの中で
ちゃんとあやまろっと。
ハンドルを握る翔ちゃんの
アクセルの踏み方は何時になく
乱暴で、急発進するみたいにして
駐車場から出ていく。
いつも助手席に座る俺を気遣って
くれる優しい翔ちゃんは
今日はいない。
翔ちゃんのマンションへの道順。
何時もならウキウキ気分で
鼻唄歌ったり、いろんな話して
盛り上って楽しい車内なのに。
「翔ちゃん、怒ってるなら
俺、自分ちに帰るよ。
ごめんね。
俺頭悪いから、ほんと
わかんなくって。
でも俺のせいだよね。
翔ちゃんの機嫌悪いの
ホントにごめんね。」
「だあーかぁーらぁ、それ!
雅紀の悪い癖だよ。
理由もわからずに謝るとか
ナシでしょ。
一緒に居たくないなんて
言ってないの。
ちゃんと帰ったら雅紀にも
わかるように話すから
だから手をかして。」
