きみがすき
第16章 *ジュウゴ*
もくもく
もくもく。と
俺の隣には、文字どおりもくもくと仕事をこなす大野さん。
もともと仕事に対してはストイックではあったけど、ここ連日の仕事への打ち込み様は、鬼だ。
別に周りにそれを強要するわけではないんだけど…まぁあれだよね。先輩がこんだけやってるのに後輩の俺がやらないわけにはいかない。的な?
「振られた」と報告を受けてから、早数週間。
大野さんは、少し痩せた。
何かを考えないように、打ち消すかのように仕事に打ち込んでいる。
『何か』ってのは、きっと相葉さんなんだろうけど。
そんな大野さんの姿に心が痛みつつも、不謹慎にも、大切な親友をこんなにすきになってくれてたんだなって。
そりゃ残念な気持ちの方が大きいけれど…
そして変わったこと
「大野さん、今日飲みに行きませんか?」
定時を過ぎても、パソコンを鬼打ちしている大野さんへ声をかける。
大「今日?ん~今日はちょっと…、ごめんね?」
「…いえ、じゃぁまた今度。」
大「うん。ごめんね。」
いつも通り申し訳なさそうに笑って、またパソコンへ向き直した。
そう、誘っても100発100中断られる。
少し前は、2.3回に1回は「しょうがねぇなぁ」なんて言いながらも、飲みに行ったりできるようになっていたのに。
昼飯は出先だった場合は外で一緒に食べるけど、それだけ。
他の同僚が「大野、最近つれないよなー。」とぼやいていたのを聞いて、俺だけじゃなかったんだと少し安心した。
「手伝えることありますか?」
大「え?あ…、ううん。これは俺の仕事だし。大丈夫だよ。ありがとう。
休めるときに休みな。お疲れニノ。」
さっきのさっきなのに、まだ居たの?くらいに仕事に集中する。
大野さんこそ、休んでください。
そう言ってやりたい気持ちを押さえて「お疲れ様でした。」とその場を離れた。
ガタガタと揺れる電車内。
大野さんと相葉さんのことは、潤くんには言ってない。
きっと相葉さんから話を聞いていると思う。お互いに知っていることを話さないのは、大野さんは俺だから、相葉さんは潤くんだから話をしたと思うから。
それに、俺たち外野がどうこう言う話ではない。
そうわかっていてもだ。
今の大野さんを見ていると、何か出来ることはないのかなと考えてしまう。