きみがすき
第16章 *ジュウゴ*
ただいまー
と、誰も居ない室内に心のなかで呟く。
冬の部屋ってなんでこうも寒いんだろ。
ピッと暖房を付けてからコートを脱いだ。
あれ?
「ない…」
携帯…定位置であるポケットは空。
「…ロッカー…」
会社だ。コートを着るためにロッカーの棚に置いた。そこからいじった記憶が無い。
まじかよ…
別に一晩くらい携帯無くてもと一瞬頭をよぎる。が
「…戻ろ」
潤くんの働いている時間は夜。終わりは深夜だから電話もろくにできない。
だから、俺はメールを残す。寝る前に俺がメールして、起きたら潤くんからのメールをみる。
そんな些細な事が嬉しくもあり、俺にとってすごく大切なんだ。
脱いだコートと、最低限の物を持って家を出た。
*
会社に着いた頃には、時計の針は12時近く。
「お疲れ様です。〇〇社の二宮です。
忘れ物をしてしまって、開けてもらっても良いですか?」
ビルの警備室へ声をかける。
警備員「おや二宮くん。こんな時間にどうしたの?」
「あ、林さん。すいません忘れ物しちゃって。」
知ってる人で良かった。
警「わざわざ戻ってきたの?よっぽど大事な物なんだねー。」
「いや、まぁ…」
警「〇〇社ならまだ開いてるよ。」
え?
警「ほら、二宮くんといつも一緒にいる、大野くん。ここ暫く遅くまで仕事してるね。そんなに忙しいの?
大きなお世話かもしんないけど、おじさん達心配してるんだよ。」
あの子いい子だよなー。と奥からも声が聞こえる。
「…毎日、ですか?」
警「そう。時々缶コーヒー差し入れしてくれんのよ。警備員にこんなことしてくれるの彼くらいだよ~……」
マジか…
遅くまで仕事してるとは思ってたけど、こんな時間まで…
「っ失礼します。」
警備のおっちゃんの話を遮ってエレベーターに乗り込んだ。
.
…居た。
電気が消された社内、その中にぼんやりとパソコンの光。
見えるのは大野さんの背中。
あんなに華奢だったっけ。
カタカタとキーボードを打つ音だけが響く。
大野さん。
俺ね、やっぱり心配です。
俺じゃ頼りないですか?
大野さんが、なんだか泣いている様に見えて、声をかけることができなかった。
案の定ロッカーにあった携帯。
俺は、電話帳から目的の人物を探し、少しだけ躊躇しつつ通話ボタンを押した。