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きみがすき

第16章 *ジュウゴ*



ただいまー

と、誰も居ない室内に心のなかで呟く。
冬の部屋ってなんでこうも寒いんだろ。

ピッと暖房を付けてからコートを脱いだ。


あれ?

「ない…」

携帯…定位置であるポケットは空。

「…ロッカー…」

会社だ。コートを着るためにロッカーの棚に置いた。そこからいじった記憶が無い。

まじかよ…

別に一晩くらい携帯無くてもと一瞬頭をよぎる。が

「…戻ろ」

潤くんの働いている時間は夜。終わりは深夜だから電話もろくにできない。
だから、俺はメールを残す。寝る前に俺がメールして、起きたら潤くんからのメールをみる。
そんな些細な事が嬉しくもあり、俺にとってすごく大切なんだ。

脱いだコートと、最低限の物を持って家を出た。




会社に着いた頃には、時計の針は12時近く。
「お疲れ様です。〇〇社の二宮です。
忘れ物をしてしまって、開けてもらっても良いですか?」
ビルの警備室へ声をかける。

警備員「おや二宮くん。こんな時間にどうしたの?」

「あ、林さん。すいません忘れ物しちゃって。」
知ってる人で良かった。

警「わざわざ戻ってきたの?よっぽど大事な物なんだねー。」

「いや、まぁ…」

警「〇〇社ならまだ開いてるよ。」

え?

警「ほら、二宮くんといつも一緒にいる、大野くん。ここ暫く遅くまで仕事してるね。そんなに忙しいの?
大きなお世話かもしんないけど、おじさん達心配してるんだよ。」
あの子いい子だよなー。と奥からも声が聞こえる。

「…毎日、ですか?」

警「そう。時々缶コーヒー差し入れしてくれんのよ。警備員にこんなことしてくれるの彼くらいだよ~……」

マジか…
遅くまで仕事してるとは思ってたけど、こんな時間まで…

「っ失礼します。」

警備のおっちゃんの話を遮ってエレベーターに乗り込んだ。



…居た。


電気が消された社内、その中にぼんやりとパソコンの光。

見えるのは大野さんの背中。
あんなに華奢だったっけ。

カタカタとキーボードを打つ音だけが響く。


大野さん。

俺ね、やっぱり心配です。

俺じゃ頼りないですか?


大野さんが、なんだか泣いている様に見えて、声をかけることができなかった。




案の定ロッカーにあった携帯。

俺は、電話帳から目的の人物を探し、少しだけ躊躇しつつ通話ボタンを押した。

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