きみがすき
第16章 *ジュウゴ*
俺の前には髪の毛をふわふわさせながらご機嫌に歩いている智くん。
こんな時間まで軟禁されてたからもちろん終電はなく、タクシーを拾うために大通りへ向かって歩いている。
それは別に良いんだけど、
さっきっから妙な違和感が…
…そうだよ
智くんがおかしい。
だってそうとう酒は飲んだはずだ。なのにベタベタ絡んでこない。そんな素振りもない。
…え、まさか恋をすると変わるとか、そんな安っすいラブコメみたいな展開ある?
「さ、智くん?」
前を歩く智くんの肩を掴み振り向かせる。
大「わ、ビックリしたぁ。なに?」
舌足らずで話すくらいには酔ってるし。
でもやっぱりくっついてくる気配はない。
…うわぁマジか、やったじゃん!長年の悩みが
「智くん!もしかしてさ…」
が、直ぐに、酔っぱらっている智くんに今言うこことじゃないな。と言葉を止める。
後で教えてあげよう。
…なんだかんだ俺もけっこう酔ってんのかな。
目を閉じて頭を振ると、脳みそがぐわんと揺れる。
帰ろ帰ろ。
「ごめん智くん、なんでもな……っつ!」
目を開けた先にあったのは、間近に迫った智くんの顔。
油断した!
反射的に目を閉じる。
…
…ん?
いつまでたっても衝撃はなく、その代わりに前髪が揺れる。
恐々目を開けると、
大「翔くん。見てー、髪にご飯粒付いてたよ。おっかしーの。」
俺に米粒を見せながらクスクス笑っている智くん。
……なんだよ!
キスされると思って焦ったわ!はずかし!
てか、紛らわしーんだよ!
大「翔くんこっどもー。」
尚も笑い続ける奴。
「うっせ!帰るよ!」
ダブルの恥ずかしさを紛らわそうと、智くんの手を掴み大通りを目指そうと歩き出した。
が、前方に気配を感じ急停止。
…あれは
…あぁそうだ
ここは松本くんの店の近く。
智くんの話では、相葉雅紀も働いていると聞いた。
情報を整理すると、彼は手足がスラッと長く、身長も高めで黒髪小顔のイケメン。
大「翔くん?何さっきっから止まったり歩いたり止まったりさぁ………あ」
相「なに、してんの?」
大「…あ、相葉…ちゃん…」
やっぱり。
相「大ちゃん、なにしてんの?」
あと目尻に皺ができる笑顔だっけ?
だけど、俺が初めて見た彼は、
怒っているような、悲しんでいるようなそんな顔をしていた。