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きみがすき

第26章 *さん*

*二宮*



腕時計を見れば
まだ、短針と長針は重ならない時刻。


明日は休み。の人達が多い事もあってか、俺達の前を行き来するスーツ姿の少し陽気な男性や、きゃぁきゃぁと楽しそうに歩く女の人達。


夏に向けて、暖かくなってきた気候。
時折、ふわっと吹いてくる風が、酔った体には心地良い。


カシュっ。

缶のプルタブを開ける音が聴こえ、それにつられて横を見れば、脚を組み、コクっ。と綺麗な喉仏を上下させ缶コーヒーを飲む櫻井さん。


…絵になるなぁ

改めて、モテる人なんだろうな。と思う。
智さんとは、また違った毛色のかっこ良さ。



『話さない?』

と言われてから5分くらい?
特に何か話しかけてくる訳でもなく、ゆっくり時間が進む。

櫻井さんの隣の智さんは静か。
本当に寝ちゃったのかな。


そんな事を考えていると
ふと。俺の視線に気が付いた櫻井さんと目が合う。

櫻「喉、乾いてなかった?」
と、まだ手の中で櫻井さんに置かれたままになっていた缶コーヒーに視線を落とす。

「…」


櫻「あれ?コーヒー苦手?」
尚も見つめる俺にその形の良い眉をあげる。

そんなことない。寧ろ良く飲む方。


櫻「あ…もしかして体調悪い?」
そして顔に心配の色が加わる。

酔ってるけど、体調は悪くない。


櫻「? おーい。二宮くん?大丈夫か?」

俺の目の前で手をヒラヒラ。


まだね。少しだけ…櫻井さんと話をするのは緊張すんだよね。でも…


「櫻井さんって、缶コーヒーのCM出てそう。」
てよりも、エナジー系かな。爽やかだし。

櫻「お?ん?ん?どうしたどうした?」
俺の返答に、櫻井さんはその大きな瞳をパチクリさせる。

「いや、相変わらずかっこ良いなぁって思って。」


櫻「え?…ふはっ!あらそうですか(笑)それはどーも。
ま、残念ながら今のところCMのオファーはないな。
てか褒めてももう何も出てこないよ?」と、可笑しそうに笑う。

「え?ケチ。」


櫻「おー言うなぁ。酔っぱらい(笑)」

この人はもう大丈夫。

「ねぇ校長センセ?聞いてもいいですか?」

だって智さんの、大切な人だから。


櫻「ぶっ!ははっ!急に昇格したな。俺。
くく、どうぞ?なんですか二宮くん?」
とその整った顔を崩して笑う。


そんな風に、ざわざわと賑わう街の中で始まった、俺達の会話。

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